発達障害の歴史自閉症の歴史(3)——アスペルガー症候群の廃止とASD統一の経緯
長年使われてきた「アスペルガー症候群」という診断名はなぜ廃止されたのか。ASDへの統合の背景と、当事者への影響を解説します。
この記事でわかること
- この記事で伝えたいこと:アスペルガー症候群は「科学的根拠に基づいてASDに統合された」——しかし当事者コミュニティの反応は複雑だった
- アスペルガー症候群の「普及」
- なぜ廃止になったのか——科学的な根拠
- 当事者への影響——賛否両論
- ハンス・アスペルガー本人の再評価
- 現在の位置づけ
この記事でわかること
- アスペルガー症候群がなぜ2013年に廃止されたか
- 科学的な理由と当事者への影響(賛否両論)
- ハンス・アスペルガー本人をめぐる歴史的問題
- 現在の「ASD Level 1」という位置づけ
この記事は、「アスペルガー症候群という言葉に自分のアイデンティティを見つけてきた方」「なぜ廃止されたのか疑問を持っている方」に向けて書いています。
この記事で伝えたいこと:アスペルガー症候群は「科学的根拠に基づいてASDに統合された」——しかし当事者コミュニティの反応は複雑だった
「アスペルガー症候群」——この言葉に、自分のアイデンティティを見つけた人が世界中にいます。
「やっと自分を説明できる言葉ができた」と感じていた方にとって、2013年にこの診断名が廃止されたことは大きなショックでした。
廃止の理由は科学的なものです。しかし当事者コミュニティの反応は一枚岩ではなく、今も議論が続いています。
アスペルガー症候群の「普及」
前回の記事で解説した通り、アスペルガー症候群という概念はローナ・ウィングが1981年に英語圏に紹介したことで広まりました。
1994年のDSM-IV(第4版)では、「アスペルガー障害(Asperger's Disorder)」が正式な診断として採用されます。
この診断の特徴はこちらです。
- 言語・認知の発達に明らかな遅れがない
- 社会的相互交流の困難はあるが、知的には正常〜高い
- 「自閉症より軽い」というイメージがあった
「アスペルガー」という言葉の普及とともに、多くの人——特に大人——が初めて自分の特性を言語化できるようになりました。
「自分はアスペルガーかもしれない」という気づきが広まったのもこの時代です。
なぜ廃止になったのか——科学的な根拠
2013年のDSM-5改訂でアスペルガー症候群という診断名が廃止され、「自閉スペクトラム症(ASD)」に統合された理由は、主に科学的な観点からです。
理由①:境界線が不明確だった
「アスペルガー症候群」と「高機能自閉症(言語発達が正常な自閉症)」の区別が臨床現場で難しく、担当する医師や国・地域によって診断が大きく異なる問題がありました。
「同じ人が別の病院で受診すると診断が違う」——これは診断基準として根本的な問題です。
理由②:スペクトラムという考え方の確立
1990年代以降、自閉症は「有/無」で分けられるものではなく、連続体(スペクトラム)として理解すべきという科学的なコンセンサスが形成されてきました。
個別の下位カテゴリーに分けるよりも、「程度・現れ方の違い」として連続的に評価する方が、当事者の実態をより正確に捉えられるという判断です。
当事者への影響——賛否両論
この変更は、当事者コミュニティに複雑な反応をもたらしました。
廃止への不満・反発
- 「アスペルガー」というアイデンティティを持っていた人が、所属感を失った
- 「ASDという大きな枠に入れられることで、支援が薄くなるのでは」という不安
- 「アスペルガーは自閉症とは違う」という当事者の声
統合への賛成・受容
- スペクトラムとして捉えることで、ASD全体への理解が深まる
- 診断名による「格付け」(アスペルガー=高機能、自閉症=重い)のイメージが是正される
- 知的障害のない自閉症の方が以前は診断を受けにくかった問題が解消される
ハンス・アスペルガー本人の再評価
2018年、歴史家の研究により、ハンス・アスペルガー本人がナチス政権下のウィーンで、障害のある子どもたちをナチスの安楽死プログラムに送ることに加担していた可能性が示されました。
これにより、一部の研究者・当事者の間で「アスペルガー」という名称を使い続けることへの疑問が高まっています。
ただし、この歴史的評価には異論もあり、現在も議論が続いています。
現在の位置づけ
日本では今も「アスペルガー」という言葉が広く使われていますが、医学的には「ASD(自閉スペクトラム症)」が正式な診断名です。
かつての「アスペルガー」に相当する状態は、「知的障害を伴わないASD(Level 1 ASD)」という分類で扱われています。
| 旧診断名 | 現在のASD分類 |
|---|---|
| アスペルガー障害 | ASD Level 1(サポートが必要) |
| 高機能自閉症 | ASD Level 1〜2 |
| 自閉性障害(カナー型) | ASD Level 2〜3 |
| 広汎性発達障害NOS | ASD(特定の重症度で評価) |
この歴史から学べること
「アスペルガー」という言葉を大切にしてきた方の気持ちは、診断名が変わっても消えません。
診断名は「自分が何者か」を説明するためのツールであり、ツールが変わっても自分の経験と特性は本物です。
一方で、「なぜ廃止されたのか」を理解することで——
「アスペルガー≠自閉症ではない」という誤解から離れ、自分の特性をよりフラットに理解できるようになるかもしれません。
まとめ
- アスペルガー症候群は1994年のDSM-IVで正式診断となり、2013年のDSM-5で廃止
- 廃止の理由:境界線が不明確で、スペクトラムとして統合する方が科学的に正確
- 当事者からは賛否両論で、アイデンティティの喪失感を訴える声もある
- ハンス・アスペルガー本人の歴史的行為への疑問も名称使用に影響している
- 現在は「Level 1 ASD」として位置づけられている
次回は学習障害(LD)の歴史を追います。「なまけもの」「頭が悪い」から障害の認定へ——その歴史です。
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参考情報・注意
この記事は当事者の経験と一般情報をもとにした読みものです。診断、治療、服薬の判断は医師などの専門家に相談してください。
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