発達障害の歴史DSMの変遷(2)——DSM-5の大改訂が「大人の発達障害」に与えた影響
2013年のDSM-5改訂が発達障害の診断に何をもたらしたか。大人・女性への診断に与えた影響と、ICD-11との関係を解説します。
この記事でわかること
- この記事で伝えたいこと:DSM-5の改訂が「大人の見逃し」を大幅に減らした
- ADHDの変更点——大人の診断が受けやすくなった
- ASDの変更点——スペクトラムへの統合
- 「神経発達症」という大分類の誕生
- DSM-5改訂の功績と課題
- ICD-11との関係
この記事でわかること
- DSM-5(2013年)がADHDとASDの診断をどう変えたか
- 「大人になってから診断された」理由がここにある
- ASDの診断基準に「感覚特性」が加わった意味
- 「神経発達症」という用語が生まれた背景
この記事は、「大人になってから発達障害と診断された」「なぜ子どものころに気づかれなかったのか疑問がある」という社会人に向けて書いています。
この記事で伝えたいこと:DSM-5の改訂が「大人の見逃し」を大幅に減らした
「子どものときに見逃されていたADHDやASD」が、大人になってから診断されるケースが急増しています。
2013年に発行されたDSM-5改訂が、その大きな転換点のひとつでした。
「子どもの障害」から「生涯にわたる神経発達の特性」へ——この視点の転換が、大人・女性への理解を大きく前進させました。
「なぜ今になって診断されるの?」という疑問の答えが、ここにあります。
ADHDの変更点——大人の診断が受けやすくなった
① 症状出現の年齢基準の緩和
DSM-IVでは「7歳以前に症状が出現」が必要でしたが、DSM-5では「12歳以前」に緩和されました。
子ども時代に「何とかなっていた」大人の多くは、7歳以前ではなく中学・高校時代に困難が顕在化していました。
DSM-IVの基準のままでは、大人のADHDが診断できないという問題があったのです。
② 症状数の基準も緩和
17歳以上の成人については、不注意・多動衝動性それぞれ「9項目中6項目以上」から「9項目中5項目以上」に緩和。
大人では症状が子どもより目立ちにくいことへの配慮です。
③ ASDとの併存が可能に
DSM-IVではASDとADHDの同時診断は原則不可でしたが、DSM-5で両方の診断が可能になりました。
これにより、実態に合った複合診断が行えるようになりました。
ASDの変更点——スペクトラムへの統合
アスペルガー症候群の廃止
DSM-5でアスペルガー障害・高機能自閉症・広汎性発達障害NOS(特定不能型)が廃止され、すべて「自閉スペクトラム症(ASD)」に統合されました。
重症度レベルの導入
| Level | 意味 | 旧診断との関係 |
|---|---|---|
| Level 1 | サポートが必要 | かつてのアスペルガーに近い |
| Level 2 | 大きなサポートが必要 | |
| Level 3 | 非常に大きなサポートが必要 |
感覚処理の特性が診断基準に追加
感覚過敏・感覚鈍麻がASDの診断基準(B項目)に正式に加わりました。
これにより、感覚の問題が中心的な困難である人も適切に診断されやすくなりました。
「神経発達症」という大分類の誕生
DSM-5では「発達障害」という大分類がなくなり、「神経発達症(Neurodevelopmental Disorders)」という大分類が設けられました。
「発達障害」ではなく「神経発達症」という言葉は、これらが「脳の神経発達の特性」であることをより明確に示した用語の変化です。
「障害」ではなく「症(特性)」という表現の方向性でもあります。
DSM-5改訂の功績と課題
功績
- 大人・女性への診断ハードルが下がった
- ADHD+ASDの複合診断が可能になり、実態に即した支援が組みやすくなった
- 感覚特性がASDの診断基準に入り、見逃しが減った
課題・批判
- アスペルガー症候群の廃止が当事者のアイデンティティを揺るがした
- 成人・女性への評価ツール・診断基準の精緻化はまだ発展途上
- 「診断基準を満たさないグレーゾーン」の人への支援が不明確なまま
ICD-11との関係
WHOが発行する「ICD(国際疾病分類)」は、2022年に第11版(ICD-11)が発効しました。
ICD-11はDSM-5に近い形でASD・ADHDを整理しており、国際的な診断基準の統一が進んでいます。
日本の公的統計や保険診療はICDを使うことが多く、実際の診療ではDSMとICDが混在して参照されています。
この歴史から学べること
「大人になってから診断された」という方へ——
あなたが見逃されてきたのは、以前の診断基準があなたに合っていなかったからかもしれません。
| DSM改訂 | 大人の診断への影響 |
|---|---|
| DSM-III(1980年) | ADDという概念が生まれる |
| DSM-IV(1994年) | アスペルガー症候群が採用、大人の診断が始まる |
| DSM-5(2013年) | 年齢基準緩和、複合診断可能に |
基準が変わるたびに、「ようやく診断される人」が増えていきます。
診断が遅れた責任は、あなたにはありません。
まとめ
- DSM-5(2013年)は大人のADHD診断のハードルを下げた(年齢基準・症状数の緩和)
- ADHD+ASDの複合診断が可能になった
- ASDは「スペクトラム」として統合され、感覚特性が診断基準に正式追加
- 「神経発達症」という用語が、脳の特性であることをより明確に示している
- 大人・女性のASDの評価ツール整備はまだ課題が残る
次回は「大人の発達障害の発見」——なぜ何十年もの間見逃されてきたのかを掘り下げます。
今日から試す3ステップ
- 記事の中で新しく知った点を1つ残す
- 自分の生活や職場に関係する点を1つ選ぶ
- 必要なら公的情報や専門家の情報で確認する
参考情報・注意
この記事は当事者の経験と一般情報をもとにした読みものです。診断、治療、服薬の判断は医師などの専門家に相談してください。
RELATED