発達障害の歴史ADHDの歴史(2)——薬物療法の登場と「作られた障害」論争
リタリン(メチルフェニデート)の登場からADHD薬物療法の普及、そして「ADHDは作られた障害か」という論争の歴史を振り返ります。
この記事でわかること
- この記事で伝えたいこと:ADHD薬物療法は1937年から始まり、論争を経て科学的に確立された
- 1937年:偶然の発見
- 1950〜60年代:リタリンの登場
- 1990年代:診断・処方件数の急増と論争
- 「ADHDは作られた障害か」論争
- 日本での状況——世界で最も保守的な制度
この記事でわかること
- ADHD薬物療法がどう始まったか(1937年の偶然の発見)
- 「ADHDは作られた障害か」論争の内容と科学的な反論
- 日本のADHD薬物療法が世界的に保守的な理由
- 薬を使うこと・使わないこと、それぞれの意味
この記事は、「ADHDの薬について知りたい」「薬を飲むことへの迷いや疑問がある」という社会人に向けて書いています。
この記事で伝えたいこと:ADHD薬物療法は1937年から始まり、論争を経て科学的に確立された
ADHDの薬物療法は、現在最も効果が確認されている単独の介入のひとつです。
しかし、そこに至るまでには80年以上の歴史と激しい論争がありました。
「薬を飲むことは逃げだ」「製薬会社の陰謀では?」——これらの疑問には、歴史的背景があります。
その経緯を知ることで、薬との付き合い方を深く考えられるようになります。
1937年:偶然の発見
ADHDへの薬物療法の歴史は、1937年の偶然の発見から始まります。
米国の小児科医チャールズ・ブラッドリー(Charles Bradley)は、行動問題を持つ子どもたちに硫酸アンフェタミン(ベンゼドリン)を投与したところ、学習行動と注意力が著しく改善するという偶発的な発見をしました。
「なぜ興奮薬が多動・衝動性を落ち着かせるのか」——当初は謎でした。
これが後の「ADHDには刺激薬が逆説的に効く」という発見の出発点になります。
1950〜60年代:リタリンの登場
1950年代にメチルフェニデート(商品名:リタリン)が開発され、1960年代にはADHDを持つ子どもへの処方が広がり始めました。
リタリンはドーパミン・ノルエピネフリンの再取り込みを阻害し、前頭前野の活性化を高めます。
多くの子どもで注意力・行動制御の改善が見られ、「魔法の薬」として一時期もてはやされました。
1990年代:診断・処方件数の急増と論争
1990年代の米国では、ADHDの診断数と投薬処方数が急激に増加しました。
- 製薬会社による積極的なマーケティング
- ADHDへの社会的認知の高まり
- 教育現場での「問題行動への対処」としての処方増加
1991〜2003年の間に、米国のADHD薬の処方件数は約3倍に増えたとも言われています。
「ADHDは作られた障害か」論争
こうした急増に対し、批判的な声が上がりました。
批判側の主な論点
- ADHDの診断基準が曖昧で、「普通の子どもの多動」を病気化しているのでは?
- 製薬会社がADHD啓発キャンペーンに多額の資金を投じ、診断増加を誘導している
- 薬で「行動を管理する」ことへの倫理的問題
- 長期投薬の安全性への懸念
科学的な反論
- ADHDは世界中・文化横断的に一定の割合で存在しており、「文化的産物」ではない
- 脳画像研究でADHDの神経学的な違いが繰り返し確認されている
- 適切な診断・治療を受けないことのリスク(学習遅延・就業困難・二次障害)が大きい
- 薬物療法の効果は数十の臨床試験で一貫して確認されている
批判と反論のどちらにも一定の合理性があります。重要なのは、「過剰診断への懸念」と「適切な診断の普及」をセットで議論することです。
日本での状況——世界で最も保守的な制度
日本ではリタリンの乱用・依存問題を受け、2007年に小児ADHDへの適応が削除されました(成人うつへの転用乱用が問題視されたため)。
その後、徐々に選択肢が増えてきました。
| 薬品名 | 成分 | 承認年 |
|---|---|---|
| コンサータ | メチルフェニデート徐放剤 | 子ども2007年、成人2013年 |
| ストラテラ | アトモキセチン | 子ども2009年、成人2012年 |
| インチュニブ | グアンファシン | 子ども2017年、成人2019年 |
| ビバンセ | リスデキサンフェタミン | 成人2019年 |
ただし成人への処方可能な医師の登録制、処方できる医師の制限など、日本のADHD薬物療法の制度は世界的に見ても非常に保守的です。
薬物療法の現在の位置づけ
2020年代現在のADHD薬物療法に関する科学的なコンセンサスはこうです。
- 適切な診断のもとでの薬物療法は、ADHDの症状に対する最も効果の高い単独介入のひとつ
- ただし薬だけが答えではなく、心理的・環境的支援との組み合わせが重要
- 長期的な安全性の研究は継続中で、個人差も大きい
薬について考えるときのヒント
- 「薬を使うかどうか」は、医師との対話の中で決めるもの
- 薬の効果・副作用は個人差が非常に大きい
- 薬物療法と非薬物療法(行動療法・環境調整・コーチング)は組み合わせが基本
- 薬が合わないと感じたら、医師に相談して代替の選択肢を探す
「薬を飲むことは逃げだ」と思っていた方へ——
高血圧の薬を飲むことを「逃げ」と言わないのと同じです。
まとめ
- 1937年のブラッドリーの偶発的発見がADHD薬物療法の出発点
- 1990年代に米国で診断・処方が急増し、「作られた障害」論争が起きた
- 科学的には脳の違いと治療効果が繰り返し確認されている
- 日本のADHD薬物療法の制度は世界的に見て非常に保守的
- 薬は「唯一の答え」ではなく、支援の選択肢のひとつ
次回は自閉症(ASD)の歴史を振り返ります。カナーとアスペルガー、二人の医師の発見と、その後の全く異なる歴史です。
薬物療法の歴史だけでなく、ADHDそのものの特徴を整理したい人は、ADHD(注意欠如・多動症)とはも参考になります。
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- 必要なら公的情報や専門家の情報で確認する
参考情報・注意
この記事は当事者の経験と一般情報をもとにした読みものです。診断、治療、服薬の判断は医師などの専門家に相談してください。
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